院内研修で見る大隈病院の人材教育と組織改革のゆくえ

150506_ohosumi1.jpg「大隈病院」のある愛知県名古屋市北区は「栄」や「錦」など名古屋の中心部近くにあり、落ち着いた風情が色濃く残る古くからの住宅街です。この地の医療を39年の長きにわたって支えてきた大隈病院院長、真砂敦夫先生は創業者である先代院長の後を継ぎ、平成14年に大学病院の勤務医から転身、平成25年から院長として病院改革に取り組んでいます。

主要都市近郊ですら高齢化が進む中で、地域医療を支える病院を取り巻く環境は日々変化しています。そうした変化に対応すべく「レゴ®シリアスプレイ」研修の実施など矢継ぎ早に新たな取り組みを行い、改革・改善を進める真砂先生に、これからの地域医療を支える病院の組織改革とビジョンについてお話をうかがいました。


より強い組織になるために「レゴ®シリアスプレイ」で中間管理職を育成
150506_ohosumi2.jpgGALENUS) 「レゴ®シリアスプレイ」を活用した人材育成研修の導入は、大手一流企業を中心に増えていますが病院ではあまり例がありません。導入のきっかけを伺えますか?

真砂先生) 研修内容の説明を受けたとき、参加者のワークショップが主体なので組織横断で仲間の結束を高める効果があるのでは? と思いました。しかしそれ以上の期待を感じたのは「いかに良いアイデアを出せるようになるか?」という発想力を高める効果です。

というのも、病院を取り巻く環境は大きく変化していきますから、「どのようにして良いアイデアを出し、いかにしてマーケットのニーズを掴むのか?」ということが、今後ますます重要になってくるからです。

そのため、こうした医療現場の大な変化に対応できる人材育成が急務であると感じています。

常に変化と改革が求められる一般企業は、この部分を訓練・強化するために「レゴ®シリアスプレイ」を使った研修を導入しているのではないか――そういった環境や考えの中で、今回導入した一番の目的は「ミドルマネジメントを担う中間層、中間管理職の育成」です。

病院を改革していくためには、旧態依然の「職種ごとの縦割り組織」とは異なる、部門横断型の仕組みを作っていかなければなりません。その中で、新たな知見や教育を最も必要とするのは、ミドルマネジメントを担う中間層だと考えています。

どんなに経営層が「病院を改革する」「病院の方針はこうだ」と言っても、中間層が代弁しなければ、現場の職員には何も伝わりません。逆もしかりで、現場の想いや提案が、経営層には何も伝わってこないという事態になりかねません。

また、病院の成長と共に職員の数が増えれば、中間層からの指示がしっかりしていないと現場はスムーズに動きません。

院長から直接の指示が続けば、それらは絶対命令になってしまって余計なプレッシャーがかかりますし、ひとつ一つの仕事に納得感が持てなくなります。

かといって現場から「この機材を買ってください」と言われても、院長は「分かった! 買ってやる」と答えてはいけません。必ず現場の管理者を通して、必要な手続きを踏まないと組織として成り立たなくなりますよね。

ですから、人材教育、特に中間層の強化は、非常に大切です。

この「レゴ®シリアスプレイ」を使った研修は、私にとってはまだ未知のものですが、良い効果が出ることを期待しています。


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GALENUS) 病院の人材教育について、先生のお考えを伺えますか?

真砂先生) 病院は専門職同士のつながりが強い「究極の部門制組織」だと思います。だから、人材の教育を部門ごとに実施すると、部門最適に陥って方向性を間違えてしまいがちです。

部門の利害にとらわれ、そのための部門独自の教育指針を持って人材育成をしてしまうと、部門間の利害の対立が生まれ、他職種連携やチーム医療という「本質」から遠くはなれてしまいます。

そうならないよう、当院の教育委員会のメンバーは、それぞれの部門から選出し部門横断の組織にしています。

こうすることで、病院の教育指針をバックボーンに各部門を見渡せる委員会となるため、病院理念に即した人材教育が可能となります。

こういったコンセプトワークの中で、当院では様々な研修を行いますが、できるだけ多くの部門が参加できるプログラムを選択しています。今回の「レゴ®シリアスプレイ」研修もその一環で、看護部はもちろん、リハビリ、薬局、栄養科や放射線科、臨床工学室の職員まで様々な部門のスタッフが参加しています。


150506_ohosumi9.JPGGALENUS) 人材教育を進めていくうえで、組織と人材を「噛み合わせる」組織マネジメントが重要かと思いますが、組織マネジメントのためにどのような取り組みをなさっていらっしゃいますか?

真砂先生) 病院理念を定着させる第一歩として、職員が身に付けている「名札」を変えることから始めました。名札の裏に病院の基本方針・行動規範を書いたシートを入れて「迷ったら病院理念に従って考えましょう」というメッセージを込めました。

組織改革のためのもう一つの取り組みとしては、私が院内を毎日ラウンドすることです。各部署へ顔を出して声をかけるだけですが、日課として部門を訪問した証拠に、その部門の職員に出席簿を倣ってハンコをもらうようにしています。

単純な行動なのですが、私がハンコをもらうためには必ず職員に声をかけなくてはいけないので、自然と会話が生まれます。

ラウンドの目的は「見て、聞いて、コミュニケーションを取る」ということですが、毎日声をかけ続けていると、やはり変化が生まれ、職員の側から積極的に声をかけてくるようになります。部門全体とのコミュニケーションが非常に円滑になり、意思疎通が早くなります。

しかし、意思疎通が円滑になるちょっとした弊害として、職員が直接「陳情」を伝えてくる、ということがあります。そうしたときは、組織の稟議フローを再認識させる意味も含めて「稟議書を書いて必要なステップを踏んでね」と答えています。

このようにコミュニケーションの円滑を目的とし、一般企業では当たり前の在庫管理、人件費管理、顧客管理等のマネジメント教育など、様々な施策を少しずつ広げていった結果、病院の理念が浸透し、中間層のマネジメントが改善して昨年ようやく黒字転換しました。

在庫管理やコスト管理はマネジメント上とても大事ですが、しかし、病院経営の本質は、患者さんを増やして医療提供を担保することにあります。そのためには、患者さんにとっても、地域住民にとっても、魅力的な病院になるのが一番の近道ではないでしょうか。

また私自身、「理念や理想」と「財務という現実」をしっかりマネジメントしなければならない立場ですから、専門的なスキルだけでなく、ゼネラリストとしてのビジネススキルも必要と考えています。

最近では、自己研鑽の一環で、人事マネジメントや財務など一般企業の手法から病院経営に役立つことがあるのではないかと思い、一般のビジネスマンを対象としたビジネススクールに通い始めました。

ビジネススクールに行くと、大手企業のビジネスマンや弁護士とも交流できます。人材マネジメントの実例について話を聞けたり、逆に医療業界の仕組みを教えたり、情報交換の場になるので興味深いですね。


地域から求められる大隈病院の機能を考える
150506_ohosumi10.jpgGALENUS) 大隈病院は、ゼネラルが求められる地域医療にとってなくてはならない存在だと思いますが、一方で脳神経外科にも力を入れています。院長先生のビジョンをお伺いできますか?

真砂先生) 私が大学病院に勤務していたころは、研究を視野に入れながら臨床を行い、それ以外にも医学生の教育、看護学校の講師、消防署への講演などを行っていました。脳神経外科に所属していたので臨床では「メスを入れる」ことに注力し、内科的な疾患をお持ちの患者さんを平行して治療する場合は、内科が受け持ってくれました。役割や機能分化がしっかり整っている中で医療を施していたわけです。

一方、大隈病院が地域から求められている医療サービスは機能分化ではなく、「かかりつけ医」のような地域医療ですから、Common Disease(良くある病気)もしっかり診なければなりません。ですから必然的に「全人的な医療」を心がけることになります。

特に当院のある地域は、高齢化率が26.9%と名古屋市内では比較的高齢化が進んでいる地域です。実感値としても、80代後半の患者さんが多くなりましたし、90歳や100歳の方まで来院されます。

当然、患者さんの年齢や病態によって幅広い診療が必要になりますが、だからと言って「何でも屋」的に高齢者を診る病院で生き残っていけるのか、という命題もあります。私たちのように2次救急をやっている地域の病院は他にいくつもありますから。

そう考えると、地域から求められる病院機能だけを追い求めるのではなく、自分たちの得意領域をしっかり伸ばしていくことも重要な経営ミッションになります。

当院は、以前から脳神経外科には特に力を入れて患者さんの受け入れを行っています。さらに伸ばしていくために、様々な施策を実行していかなければなりません。

Common Diseaseをしっかり診るゼネラリストの領域と、脳神経外科というスペシャリストの領域を共存させていくことが大切なのです。

また、もうひとつの視点として、地域での医療連携がますます重要になっています。

特にこの地域では、病院の数がゆっくりと減り続け、代わりに介護施設が増えています。この傾向は今後も続くでしょう。当院の医療連携室には、介護施設からの相談や問合せ、診療の依頼などが毎日あります。

増え続ける介護施設とその利用者に対して、病気が発症したときの「受け皿」として機能しなければなりませんし、施設や利用者と円滑なコミュニケーションを図るために、すでに副院長を中心としたチームが、周辺の介護施設を回って関係性を構築しています。

今後も例えば、当院のリハビリスタッフを派遣して在宅リハビリを提供したり、医療相談員と共に社会福祉的な相談を承ったりという、病院だからできる連携やサポートを行っていく必要があります。

一方、在宅の患者さんへのケア、具体的には往診が主になりますが、往診を担ってくださる開業医の先生方との連携も非常に大切です。

医療的なケアについても、嚥下や褥瘡などの分野で開業医の先生方をサポートしていくソリューションパッケージが出来るのではと考え、計画しています。

「外部環境分析」を進めるにつれ、地域の高齢化が加速することは数字が確実に示していますから、厚生労働省が作るロードマップに合致するような病院にしていくことも肝要です。

しかし、地域医療を支える病院として、幅広い患者さんに対応していくために、どのようなケアミックスが良いのかをしっかり考え、地域に密着した病院を目指していくことの方が大切です。

もうひとつ、当院の強みは脳神経外科です。この領域をしっかりと伸ばすことも重要です。人材は揃ってきていますし、機材や設備も、3次救急並みにキャッチアップしていきたいと考えています。

医療だけでなく介護まで見据えた、地域の幅広い医療ニーズに応えながら、病院としての機能と得意領域を充実させ、より地域住民に貢献できる病院に育てていくことが、今、私の描く「大隈病院」のビジョンです。

GALENUS)
本日はお忙しい中、ありがとうございました。