市立御前崎総合病院 大橋病院長インタビュー

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僻地医療で大切な「高齢者への医療提供」と「命の尊厳」を考える
市立御前崎総合病院は、静岡県の最南端にある人口3万4000人の小さな地方都市です。いわゆる僻地と言って良いと思います。

当院の地域での役割を考えると、ひとつは、高齢者への医療提供、もうひとつは地域住民への最低限の救急医療の提供になります。

特に「高齢者への医療提供」に関しては重要で、僻地であり高齢化がどんどん進むこの地域を考えると、超高度な医療を内包した医療提供は現実的ではありません。

例えば、90歳の患者さんにすい臓がんが見つかり、根治の可能性は極めて低い。もし、超高度な手術を施したとして、今度は、術後の合併症におびえながら、耐え難い痛みと戦う。

本人と家族が望むのであれば、高度な医療を中心とした治療を選択するべきですが、そうではない場合、私たちの医師が学んできた「根治を目指す」という感覚で治療を行うことが、本当に患者とその家族のためになるのか、患者さんやご家族と触れ合う中で疑問が湧いてきます。

本人も家族も望まない治療を施し、多額の医療費を使う。それよりも、望まれる形で「痛みを取り除く」や「在宅での生活と治療」など、『キュア&ケア』に注力したほうが、命の尊厳だけでなく、医療財源を考えたときにも有効なのではないでしょうか?

今後の地域医療、特に御前崎市のように高齢化と人口減が加速している地域では、「広い意味での緩和ケア」という考え方が強くなると考えています。

このような考え方は、「がん=緩和ケア」ということだけではなく、今後の地域医療、特に高齢者への医療提供を考える上で、すべての診療科に当てはまると思います。

地域医療、特に高齢者への医療提供を考える中で、非常に大変な部分は、50代~60代の病院経営者は、大学を含め、高齢者医療を学ぶ環境がない中で、臨床経験を重ねてきました。

ですから、大きく人口動態が変わり、医療界全体が変革していく今の環境の中で、50代~60代の経営者は、まさに、現場で試行錯誤をしながら地域医療を支えるために、様々な手立てを考えていくしかありません。

『命の尊厳をどう考えるか?』

高齢者への医療提供を考える中で、緩和医療は非常に重要であると感じているからこそ、医学にはない概念を、患者さんと向き合う「医療」の中で見出してかなければなりません。


やれることはまだまだある。患者さんと向き合う中で見つかる未来のカタチ

Dr.ohhashi_omaezaki1.jpgさて、高齢化が進み、人口が減少する僻地では、救急で搬送される患者を中心とした急性期病院の考え方では限界があります。

都会のように潤沢に患者を確保できませんから、急性期病床を減床しながら、回復期や療養の病床も展開するケアミックスで運営することが、地域のニーズに応えられると思います。

高齢者が多く、回復期や慢性期が多くなる。これは、人口動態に加えて、患者の病体やステージが急性期一辺倒では抱えきれませんから、当然の流れです。

通常の経営感覚であれば、高齢化や人口減に伴う急性期病床の減床は、憂う事態かもしれませんが、本当に患者と向き合あえばそうとも限りません。

患者さんとその家族の意向を伺い、治療方針を立て、チーム医療で寄り添っていく。病態だけでなく、人や生活環境も含めて考える。

そして、根治することが使命である医師の概念を少し広げ、緩和と言う概念を医療に入れていけば、僻地医療の未来が開けると思っています。

病院経営を考えると、高度な治療を常に行いたいと思っても、僻地といわれる地方では、患者数の確保が十分にできませんから、慢性期型の割合がどんどん増えます。

しかし経営者として、「何もしない」「何も手を打たない」と言うのは無策すぎます。

当院は、地域ニーズに応えるために「脊柱センター」を設置しました。そして、非常に高度な手術を行える優秀な医師が常勤でいますから、経営者としては、まず環境の整備に取り組みます。

高度な医療器材が必要になりますから、購入や設置は担当医と共に相談をして導入を急ぎます。それと平行して、器材や医師の腕を活用するために、患者数を確保しなければなりません。

環境と医師が整っても、御前崎市の人口約3万4000人だけでは、十分な患者数の確保は厳しい。ですから、医療圏を広げ、市外からも患者を呼び込むことが必要になります。

私もリウマチと膠原病の専門医として現場に立っていますが、患者の8割は市外からの患者さんです。

地域医療、特に、高齢者への医療提供と、何かあったときに受診できる急性期、そして、地域外からも患者さんが集まる領域を掛け合わせて、経営努力を継続すべきであると考えています。

『僻地だから何もできない』と言うのは大きな間違いで、やれることは実はたくさんあります。憂うばかりでなく、患者さんと向き合い、そこから導かれる「解」を求めていけば、僻地の地域医療は、新しい時代を乗り切れると思います。

当院では、地域ニーズに応えられるよう、急性期から在宅まで切れ目なく提供しています。
PT・OTなどを担う職員が、非常に良くやってくれていますし、看護師さんも患者さんと向き合ってくれていますので、「患者さんに向き合う医療=キュア&ケア」は、かなり浸透しています。

ただ、原発が近く僻地であるので、医療の質を高めるための人材が集まりにくいことが課題となっています。

緩和ケアをもっと追及したいとか、急性期から在宅まですべてを担いたいと言う医師であれば、やりがいを感じられる環境がありますから、ぜひ、飛び込んで欲しいと思っていますし、新しい地域医療のカタチを自ら作り出せるのではないでしょうか?


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●市立御前崎総合病院ホームページ http://omaezaki-hospital.jp/

●市立御前崎総合病院医師向けホームページ http://www.omaezaki-hospital.jp/dr/


special thanks to Dr.OHASHI
photo by YOSHIO KATAYAMA/text by GALENUS