米盛病院ラーニングセンターに見る「卒後教育の夜明け」

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米盛病院ラーニングセンターの講堂。280名収容の座席は自動で収納でき、災害時に備えて「酸素」「吸引」も配管している。


なぜ病院に、大規模なラーニングセンターが必要なのか?

米盛病院を取材していて「卒後教育が変わる」と感じるのが、2014年9月9日の病院新築移転にあわせ設置された、病院併設の「米盛病院ラーニングセンター」だ。

常に病院に突きつけられている「医療従事者の確保」という命題は、「数よりも質」という流れが2014年は特に強くなった。

質を議論する上で最も大切な要素は「卒後教育」だが、病院へ入職後、医師や看護師が継続的に安心して利用できる「学びの場」は、全国各地で様々な試みを実施しているとはいえ、まだまだ少ないのが現状だ。

その上、医療従事者たちは、自己研鑽という名の下、独力で学びの場を見出し、私財とプライベートな時間を投下して、日々患者のために学びを請うている。この「学び」は、『患者のため』という博愛の精神と自己犠牲の上に担保されていると言っても過言ではないだろう。

そして、そういった先輩たちの状況を知る「学生」たちは、「学びの場」がより多くある大都市圏へ流出。地元の医療は人材枯渇の負のループから抜け出せず、疲弊が蓄積するばかりとなる。

この「どうしようもない」と思われがちな状況に、真っ向から挑むのが「米盛病院ラーニングセンター」だ。写真を見ていただければわかるように、民間病院としては稀有な規模と設備を整えた。
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米盛病院ラーニングセンターは、講堂に加えて、病室や手術室を模したシミュレーションルームや最新の研修器材を揃える。

こういった先端設備と器材を備え、様々な研修が適宜行われ、なおかつ院内からすぐにラーニングセンターへ移動できる。移動時間や交通費という「コスト」を抑えられ、研鑽に集中できる環境は、志ある医療従事者にとって、何よりの「ごちそう」なのではないだろうか。

しかし、自院のみの人材確保やスキルアップのみを考えるのであれば、ここまでの設備は必要ないのではないか?と疑問が浮かぶ。


卒後教育の『維新』は、地方の医療の救世主となるか?
ptls_6.jpg第4回鹿児島PTLSの様子。全国から集まった受講生と講師の熱気が講堂に満ちる。


米盛病院ラーニングセンターは、自院という最小単位の医療コミュニティーを超え、地域全体という視点、そして、全国を視野に入れている。

このキーワードは「大都市へ行く」から「鹿児島へ来る」だ。

例えば、米盛病院が継続して開催している「鹿児島PTLS(Primary -care Trauma Life Support)」。主催は米盛病院だが、すべての医療従事者に門戸が開かれ、鹿児島全県、ひいては全国から受講生がやってくる。

「鹿児島でしか学べない」から飛行機に乗ってやってくるのである。

鹿児島に質の高い「学びの場」があれば、地元で学べばよく、全国からレベルの高い医療技術や情報も集約され、全国から「学びの場」を求めてやってくる構図が見えてくる。

この構図のキーワードは「規模化」ではないだろうか。

地域はもちろん日本全国を視野に入れれば『規模化』が可能になり、全国各地の質の高い講師を招聘することができる。自院スタッフ向けでは成しえない「質の高い学びの場」を生み出すことができる。

事実「鹿児島PTLS」は大盛況であり、この規模の施設でも手狭に感じるくらいだ。

現在の米盛ラーニングセンターは、医療従事者との「One to One」からのスタートだが、地域のほかの病院が活用するようになれば、卒後教育の「病院連携」が生まれ、センターを中心に鹿児島の医療水準は今以上に高くなり、人材流出どころか人材流入すら起こりえる可能性がある。

経営課題として重くのしかかる「人材確保」「人材教育」を、地域全体で共有・シェアし支えあおうとする「米盛病院ラーニングセンター」の挑戦は、卒後教育の『維新』となる可能性を多分に秘めているのではないだろうか。


『PTLS』という教育訓練コースがあるのをご存知ですか?
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鹿児島PTLSコース(米盛病院ラーニングセンターにて実施)の風景。救急隊も参加し、模擬演習を行いながら、受講生も飛び入りで参加。箕輪良行先生(JCHO総合診療教育チームコーディネーター)をはじめ、有名な講師陣が登壇しました。

『PTLS』は略称で、正式名称は「Primary -care Trauma Life Support」。

適切な診療をしていれば救命できたと思われる「防ぎ得た外傷死亡(Preventable Trauma Death)」を最小限にする目的で策定され、米国の外傷診療コース(ATLS:Advanced Trauma Life Support)を基礎に日本で開発された外傷診療教育コースです。

多発外傷に焦点を当てたプライマリケアのための、基礎知識を習得する教育訓練コースである『PTLS』は、各地での開催が広まっています。

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「第4回鹿児島PTLS」の様子。コースは2日間に分かれ、1日目は講堂での座学を中心、2日目は実際のシミュレーションと認定試験が行われた。コースの最後は、主催の米盛理事長から終了証が手渡された。


受講生インタビュー
ptls_10.jpg社会医療法人鹿児島愛心会 大隅鹿屋病院
森本真由子先生(2年次の研修医)


GALENUS) 「鹿児島PTLS」を受講するきっかけを教えてください。

森本先生) 病院で救急科の研修をしていて、もともと興味を持っていたのですが、きっかけは救急科スタッフの中に救急救命士の資格を持った看護師さんがいまして、その方に紹介をしていただいて、今回参加しました。

GALENUS) 2日間のカリキュラムでしたが参加してみていかがですか?

森本先生) 最近は、外傷の患者さんを治療する機会も多く「だいぶできるようになってきたかな」と思っていたのですが、「体験型のデモンストレーション」を通じて、手順や知識の再確認ができ、しっかり修正をしつつ2日間を終えることができたので、技術の向上はもちろん、自信にもつながりました。

GALENUS) 今後、この研修はどのように役立つと思いますか?

森本先生) 自己研鑽や研修を通じて様々な臨床を重ねていますが、こういった研修を活用すると「何を指標にやっているのか?」がより明確になるので、ひとりよがりにならずに客観的に自分を分析することができます。

誰から見ても適切な診断を行っているという自信と裏づけになりますから、今後も時間がゆるす限り、こういった研修や勉強会には、参加していきたいと思っています。