地域における救急医療の役割~救急救命士の雇用から始まる、救急医療のパラダイムシフト~ 地域における救急医療の役割~救急救命士の雇用から始まる、救急医療のパラダイムシフト~社会医療法人 緑泉会 米盛病院
理事長・院長 米盛公治

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人口減少時代に突入し、地方都市型医療や過疎地域型医療の中での「救急医療」の疲弊が、少しずつ際立ってきています。救急医療ニーズは減少し、医療経済活動の上でも、厳しい状況が続いています。また、地域包括ケア・在宅へトレンドが動く中、鹿児島市の米盛病院は、地方都市の救急医療を守るために、自費で民間医療用ヘリを運航したり、院内に救急救命士を雇用したりするなど、地方都市型の救急医療にパラダイムシフトを起こしました。
開業から半年、地域における救急医療の現状を、米盛理事長へ伺いました。

県や地域を越える医療として広がる、米盛型救急医療サービス

150602_yonemori2.pngGALENUS) 新築移転から半年と少しが経ち、先生が目指す地方都市型の救急医療体制が軌道に乗っていると拝察いたしますが、現状はいかがでしょうか?

米盛先生) 計画では立ち上がりから3年間を重視して、前年度の倍の急受入れを続けていくイメージを持っています。初動半年は、想定していた通りに動いているのでまずますのスタートと感じています。

移転開業を経て当院が信頼されているかどうかを図る術として、例えば、救急であれば救急車の搬送数であったり、鹿児島県のドクターヘリが当院へ搬送する数だったり、当院が運航するドクターヘリの補完ヘリである民間用医療用ヘリ「レッドウィング(愛称)」の出動数であったりと、いくつか指標となるべきものはあります。

ちなみに、「レッドウィング」の運航費は当院ですべて賄っていますが、患者さんすべてを当院へ搬送するわけではありません。外傷や病状により当院外の病院への搬送も行うため、Uターン率は50%くらいです。

また、当院ではドクターカーも運行していますが、補完ヘリの稼動が本格化すれば、当然、要請件数が減ります。しかし、ヘリが動けない悪天候や運行時間外の要請が明確化されますから、こちらも想定どおりに推移しています。

想定から少し異なっていたのは、民間医療用ヘリ「レッドウィング」の運航開始から比較的早いタイミングで、十島村(離島)からの要請があったり、奄美大島の鹿児島県立大島病院の救命救急センターからの病院間搬送の要請があったりと、人口が少ない離島での救急や病院間搬送のニーズはしっかりとあるということが顕在化しました。

また、宮崎県の防災ヘリが患者さんを搬送してきたり、自衛隊との連携などを確認したりと、県を越えての医療が少しずつ広がり、当院の『救急医療への姿勢』をご理解いただいていると感じています。


地方都市型の救急医療は変革のとき。病院経営者として何を考えるか?

150602_yonemori3.pngGALENUS) 救急医療のニーズの顕在化ということは、今後鹿児島県では、ドクターヘリや貴院の「レッドウィング」への要請は増えていく傾向なのでしょうか?

米盛先生) 増えていく傾向にあると想定しています。と言うのも、今までの救急隊は、ドクターヘリの要請が必要と判断しても、別件でヘリが出動していれば要請することなく、陸路を救急搬送していました。ドクターヘリの運航において、このような潜在的な要請件数は一定の割合で必ず存在します。

また、人口減少にともない鹿児島市以外では、医療経済活動として救急医療のニーズ自体が減り、救急をやめるところも出てくるかもしれません。

このような救急医療体制の中、鹿児島市外で救急要請が発生した場合、要請元の地域でその患者さんを診断し治療する「完結力」が少しずつ落ちて行きます。

一方で、救急隊の使命としては「診ることのできる病院へ運ぶ」ことになり、例えば、時間との戦いである心筋梗塞などが疑われる場合には、キーワード方式でドクターヘリや補完ヘリを要請し、診断から治療までできる病院へ搬送要請することになります。

人口の少ない離島や地域での救急医療ニーズはあるが、その地域では救急医療を完結できないのであれば、医療資源を強化するよりも、ロジスティックに力を入れることが、医療経済の合理性に適っていると思います。

幸い鹿児島市医療圏には、鹿児島県全体170万人の救急医療体制を担保するだけの、数多くの高度急性期病院がありますから、救急医療資源が枯渇している地域から、ヘリを使って患者さんを集約し治療することも可能です。

救急病院を過疎地域で強化することは、医療経済活動を考えると矛盾をはらみます。ですから、こちらから出かけていき集約し、効率的に治療を行い、そして地域に患者さんをお戻し、回復やリハビリに専念いただくほうが理に適っている。

地方都市型の救急医療も、大きく変革の時を向かえていると実感しているところです。


救急救命士の雇用から始まる、救急医療のパラダイムシフト

150602_yonemori4.pngGALENUS) 貴院の救急医療の取り組みの中で、目を見張るのが「救急救命士」を多く雇用していることです。意図をお伺いできますか?

米盛先生) ドクターカーやドクターヘリ、そして当院の補完ヘリ「レッドウィング」は、誰もが出動要請できるものではありません。消防からの要請でなければ「レッドウィング」は出動できませんし、当院のドクターカーも緊急走行はできません。

ドクターヘリやドクターカーの利用判断は、救急隊員に委ねられています。

これは、医学的知識もあり、地域の病院の情報もある程度把握している救急隊員だからこそ、患者にとってできるだけ正しい病院を選定することができるからだと思います。

一方、病院のエンドユーザーは救急隊員ではなくて患者さんです。

その患者さんがもっと気軽に病院にアクセスできて、相談ができたり、要請できたりするものは何かないか? というところから救急救命士の雇用に繋がっています。

救急救命士は、法的に病院内では医療行為はできません。しかし、当院は補完ヘリやドクターカーで出かけていく医療を行っていますから、救急現場での活動が多いです。
救急現場であれば救急救命士は医療行為ができますから、「出かけていく医療」において、救急救命士のニーズはしっかりあります。

その一方で、「出かけていく医療」は終日発生するわけではありませんから、救急救命士が院内にいる時間、彼らの能力を生かす業務をいかに創り出すか、がポイントと思います。

例えば、患者さんが電話で病院へ何か相談したいとした場合、日勤帯であれば看護師が対応したり、緊急度が高ければ医師が直接対応したりする場合もあります。

加えて当院は、補完ヘリやドクターカーも含めたER機能を兼ね備えていますから、重症の患者さんに早くレスポンスすることが大事です。

それを、病棟の看護をしながらの看護師や、救急最前線の担当ではない看護師に任せるよりは、救急時の学術的なナレッジが伴っている救急救命士の方が、的確な判断を下せるのではないか? という思いがありました。


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【写真】上段左/米盛病院では、救急救命士の資格取得者を10名採用し、救急現場での職務に加えて救急ダイヤル『#7099』で相談と電話トリアージも行う。上段・右/米盛病院救急科を司る冨岡副院長。フライトドクターとして「レッドウィング」にも搭乗する。下段左/フライトナースと整備士。ヘリの整備状況や装備のセッティングなど細かい部分まで情報共有を行い、要請があればいつでも出動できる態勢を整える。下段中央/県ドクターヘリ補完ヘリ「レッドウィング」の格納庫。


そんな中で、地域の医療サービスの充実を考えていたときに「24時間救急ダイヤル」の開設をしようと思いました。この救急ダイヤルは、24時間電話相談ができると言うものです。

通常は看護師や医師を配置するのだと思いますが、当院では、救急救命士のメンバーが担当で、地域の患者さんからの電話相談を一旦トリアージをして、その上で、必要度に応じて看護師や医師に繋いでいくシステムを構築しています。

このような仕組みであれば、地域住民へのサービスも充実し、救急救命士の能力も活用でき、看護師など職員の負担も軽減できますから、院内での救急救命士の役割は重要なものになります。

今、救急救命士は、資格を取得してもその半分は、救急救命士として就業できず、全く異なる職種で生計を立てています。

勉強と自己研鑽を積んできた彼らのナレッジを活用することで、病院経営の一助になりますし、地域の救急医療に貢献してくれると思います。

地域における救急医療を考える上で、この地区の住民のみなさまに「当院があって良かった」と思ってもらうためには、鹿児島市、鹿児島県の全域に良いと思ってもらえるような努力をしなければならないし、日本全国に良いと思ってもらえる努力を重ねなければなりません。

医療提供体制が大きく変わってきていますから、救急救命士の活用も含めて、今までどおりのやり方ではなく、新しいやり方を見出し、発想のパラダイムシフトを心がけ続けたいと思います。

GALENUS) 本日はお忙しい中、ありがとうございました。

社会医療法人緑泉会 米盛病院 米盛理事長先生プロフィール
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米盛公治(よねもり こうじ)/1965年9月9日生(49歳)
鹿児島県出身/医学博士
1997年3月鹿児島大学大学院医学研究科修了。
鹿児島大学病院、鹿児島県立大島病院などを経て1997年当法人入職、
2002年院長、2009年理事長に就任し現在に至る。

・鹿児島大学医学部 臨床教授
・鹿児島市医師会 理事
・鹿児島県医療法人協会 理事
・日本整形外科学会認定専門医
・日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
・日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
・AHA BLSインストラクター
・AHA ACLSインストラクター
・ICLSインストラクター
・ITLS basicインストラクター
・JPTECインストラクター(世話人)
・Emergo basicインストラクター
・MCLSインストラクター
など、整形外科のみならず多種多様の内科・外科系救急指導資格も有する。