勤務医と地域医療連携のこれから 勤務医と地域医療連携のこれから岩手県立中央病院
病院長 望月 泉

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2015年4月、8年ぶりに開催された「第29回日本医学会総会 2015関西」。この中の特別講演として、総会史上初となる「勤務医」を中心とした演題「勤務医と地域医療連携」に注目が集まりました。
この座長として、泉良平先生(富山県医師会/富山市立富山市民病院)と共に成功に導いた望月泉先生(岩手県医師会/岩手県立中央病院)に、昨今の医師の実情と、地域医療連携についてお話を伺いました

「医師になったら医師会に入会する」という本質を考える
150604_Dr.mochizuki2.jpgGALENUS)  先の医学会総会で座長を務められた演題「勤務医と地域医療連携」では、勤務医の立場から5人のパネリストが様々な視点から口演されました。その中で気になったのが「勤務医と医師会」についてです。実情をどのように感じられていますか?

望月先生 医師会と聞くと一般の方は「開業した先生の集まり」とイメージしてしまいますよね。この固定観念が、実は医師の間でも当たり前のように存在しています。

というのも私が「岩手県医師会で役員をやっている」「日本医師会で勤務医委員会副委員長を務めている」とお話しすると、皆さん一様に驚かれます。「だって、望月先生は勤務医でしょ?」と。

勤務医だからとか開業をしているからとか、そういう枠組みで語られるものではなく、医師会は日本の医師の代表であって、日本の医師は「医師会会員であるべき」という思いを強く持っています。

弁護士になったらすべての弁護士が弁護士会に入るように、医師になったら医師会に入る、こういった流れがあって然るべきではないかと思います。

こういった思いの中で、何とか加入率を上げていこうと、様々なことをやってきましたが、勤務医の視点に立つと、入会手続きが煩わしいと感じてしまうようです。

医師会と言うのはご存知のように3層構造で、日本医師会、都道府県医師会、郡市区医師会とあり、それぞれに会費をお願いすることになる。もちろん、社団法人であるんですが、加入に手間がかかりそうなイメージを持たれがちなんですね。

であれば、給与天引きで自動的に入会する仕組みにしたり、福利厚生の一環で会費を病院負担で自動入会にしたりするなど、制度化してしまえば良いのではないかと思います。

民間病院の一部では実施されているところもありますが、当院のように公立病院となると、なかなかスムーズに動くことができず、ジレンマを感じることもあります。


150604_Dr.mochizuki3.jpgGALENUS) 手続きが難しそうというイメージに加えて、医師会に入会するメリットを考える若い医師も多そうですが。

望月先生) 医師会に入るのはメリットやデメリットということではないと思うんですね。当たり前のことですが、医師は一生勉強ですから、自己研鑽を常に心がけなければなりません。

だからこそ、医師になったら医師が集まる医師会と言う組織に入って、自分を磨かなければならないと思うんです。

ところで、2015年は岩手県全体で77名の研修医が参集し、岩手県医師会主催で歓迎会を行いました。おかげさまで、今年で30回を迎えました。また当院にも19名、2学年で38名の研修医を受け入れています。

こういった歓迎会やオリエンテーションで登壇する際に、医師に必要なノブレス・オブリージュ(地位や身分に相応した重い責務・義務という意味の仏語)の精神や「アソシエーション」ということについてお話をします。

「ノブレス・オブリージュ」という言葉に象徴されることは、 例えば、3.11の震災時に全国から集まった医師の姿に象徴される「奉仕」「利他主義」「仁」と言うことです。

そして「アソシエーション」。

医師一人で行えることには限界があります。だからこそ、同じ目的を共有したもの同士が集まり、切磋琢磨することが大切です。

日本医師会は学術団体でありますが、職能団体としての機能も併せ持っているのではないでしょうか?

医師の知見を結集して、医療のあるべき姿を提言したり、あるときは、医療のあるべき姿を国民に問うたり、国に提言することもとても大切だと思います。

また、医師だからこそ医師会に集い、「アソシエーション」の大切さを知らなければなりません。

特に若手医師には大切なことで、岩手県医師会へ「研修医に限って会費を無料にして欲しい」というお願いをしまして、県医師会長を始め、皆さんにご尽力を頂いた結果、今では研修医に限り会費無料になり、郡市医師会も歩調を合わせていただけました。

医師、特に勤務医は、病院の中だけで医療が完結すると勘違いしがちです。ただ待っていれば患者が集まり、病態だけを治療すればよいと。

こういった感覚はすでに時代遅れで、淘汰されていくものです。

古い感覚に引きずられるのではなく、医師会を職能集団と言う側面で活用し、様々な会に参加するだけでも、刺激と学びを受けるはずです。

そして、地域医療を考える上で、これから最も大切になる医療連携の姿が見えてくると思います。


勤務医が病院に引きこもる時代が終わり、今、必要なパラダイムシフトを考える

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GALENUS) 勤務医が地域医療連携に積極的に携わるとき、どのようなことがポイントになりますか?

望月先生) ひとつ目のポイントは、「顔の見える地域医療連携」を行うために『アソシエーション』としての医師会を活用するということです。

先ほども申しましたが、病院勤務医が病院の中だけで診療をしている時代は終焉しました。機能分化が急激に進み、医師一人がすべてを抱えるのではなく、連携の充実により、チーム医療で患者さんと地域を支える時代です。

そして、今後加速する「在宅医療」のサポートも、勤務医として重要な役割になります。病院内の他職種連携はもちろん、地域の先生方との連携が、勤務医の自己研鑽に繋がりますし、在宅医療を考える際、開業医の先生方との連携や情報共有はとても大切なことです。

だからこそ勤務医は、医師会に加入して、勉強会や会合に積極的に参加し、開業医の先生方と顔を見て話をしなければ、何も始まりません。

目の前の患者さんを、先生同士、もしくは、他職種で連携し、在宅後もしっかりサポートしていくには、勤務医も地域に赴いて、信頼関係を構築しなければなりませんし、常に顔の見えるポジションにいないといけません。

勤務医が病院に引きこもる時代は終わりました。

こういった勤務医のパラダイムシフトに加えて、もうひとつのポイントは病院としての役割をしっかりと果たすことです。

『本当に救急患者は断らない』

これをしっかりと行わなければ、地域の先生方の安心、ひいては地域住民の安心には繋がりません。

『救急』を掲げている以上、これを病院の使命としなければ、地域医療連携は担保できないのではないでしょうか?

当院では、盛岡医療圏の50%に当たる、年間約6000台の救急車を受け入れています。その中で、どうしても年間数件、当直医師の緊急手術中などの事由ですが、受け入れ困難な状況が生まれてしまいます。

このような場合には、断った理由書を病院長宛に提出する制度を取り入れています。

これは、病院全体で改善できる余地はないのか、制度や体制の見直しは必要でないか? 議論し考え、病院の役割を全うするために必要なことと考えています。

そして病院全体、ひいては勤務医一人ひとりの努力が土台となって、開業医の先生方から「岩手県立中央病院に相談すれば、必ず連携がある」という信頼を頂き、また当院からも、診療案内の冊子を配布し、連携診療所の先生方と強い信頼で結ばれています。

「顔の見える連携」「断らない救急」を全うするための体制作り
150604_Dr.mochizuki5.jpgGALENUS) 「顔の見える連携」「断らない救急」をしっかり行うとなると、勤務医の負担がより一層大きくなると思いますが、サポートや体制作りなど、どのような施策を講じているのでしょうか?

望月先生) 勤務医の負担だけを増やしてこれらを一旦実現しても、持続可能ではありません。

まず大切なことは、医師の増員です。どの地域のどの病院でもご苦労されていると思いますが、現状をしっかり見定め、施策を講じて、継続していかなければなりません。

例えば、後期レジデントは3年で正規職員にしていく制度を作り正規職員を増やしていく施策や、医療クラーク(医師事務作業補助)を目いっぱい雇用して、医師の業務負荷軽減を図ること、また、当直の翌日の午後は必ず休むよう促し、働かざるを得ない状況は時間外手当で補うなど、考えうる施策を継続して行っています。

そういう施策の中で重要視しているのが『女性の働きやすい職場を生み出す』ということです。女性医師が働きやすい職場環境は、男性医師にとってももちろん働きやすいのです。

最近の議論を聞いていると、女性の働きやすい環境を求める際に必要なこととして、男性の意識改革や女性優遇のための大学教育の変更など、時間のかかる議論や、少し古い考えの上での要求が多いように思います。

例えば、病院での24時間院内保育は、もう当たり前の世の中になりつつあります。もちろん、職場環境としては大切なものです。

しかし一方で、子どもを保育園に預けっぱなしで、24時間働こうという人はなかなかいないと思います。

無理して働き、仕事も家庭もゆがむのであれば、その根本的なことを解決すればよいわけで、当院では、子育中の女性医師は「当直免除・オンコール免除」にしています。

こういう思い切った制度を取り入れると、いろいろと細かい問題が起きますが、すぐに解決できます。

例えば当院では、麻酔医15名中7名が女性ですが、ある診療科から「手術が回らない」と報告が来ます。しかし、予定手術を見るとすべてが午後。午後でなければならない理由が見当たらなければ、午前にスライドするように改善指示を出せばよいのです。

そして、こういった思い切った制度と修正を行い、女性だからとか男性だからではなく、働きやすさを追い求めると、「この病院で働いてみたい」という形になって直接応募が増えるんですね。

こういった医療従事者だけでなく、事務方も含めた病院全体の継続的な努力があるからこそ、「顔の見える連携」「断らない救急」の強化に繋がっています。


今の医療人に求めるもの
150604_Dr.mochizuki6.jpgGALENUS) 望月先生は医師会や全国自治体病院協議会の役員だけではなく、日本病院会の役員もされています。加えて、日本病院会岩手県支部の支部長も務められています。これからの医療における地域の役割をお伺いできますか?

望月先生) 日本は南北に長く、様々な地域が存在しています。それぞれに地域性、風土や文化があり、医療体制も様々だと思います。一方で、国が求める医療提供体制の改革やビジョンの変更は大切なことです。

しかし、これに踊らされてはいけない。

医師は、国の制度の歯車ではありません。「医は仁術」。まずは医師としてどうあるべきか、それを再び見つめなおす時期に来ていると感じます。

岩手県は新渡戸稲造の故郷であり、彼の著書「武士道」は、1900年(明治33年)に発行されると大ベストセラーになり、当時、ドイツ語やフランス語に翻訳され世界でも注目されました。

アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領も感銘を受けたとされる、著書の中に書かれている「日本人に流れている根本的な精神」の考え方は、今の医療人にとって、"忘れかけている何か"に訴えかけているように思います。

日本病院会の支部活動も含めて、学会など様々な場所で、多くの医療人と共に「医師とは?医療とは?」を考えていける時間を生み出したいと考えています。

GALENUS) 本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました。


岩手県立中央病院 病院長 望月 泉先生プロフィール
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望月 泉(もちづき いずみ)
岩手県立中央病院 病院長
東北大学医学部卒/東北大学医学部臨床教授
日本医師会勤務医委員会副委員長
全国自治体病院協議会常務理事
岩手県医師会常任理事
日本病院会理事
日本病院会岩手県支部支部長
など要職を兼任。

special thanks to Dr.MOCHIZUKI
photo by YASUHIRO SEINO/text by GALENUS
appeared in 2015/05/08