医療ネットワークを最大化する新しい仕組み 岡山大学病院の様々な試みを見る! 医療ネットワークを最大化する新しい仕組み 岡山大学病院の様々な試みを見る!岡山大学病院
病院長 槇野博史

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130例を超える肺移植、日本初の肝腎同時移植などの先進医療に加え、「臨床研究中核拠点」や「橋渡し研究支援拠点」など、病院の担う機能を拡充している岡山大学病院。近年では「岡山大学メディカルセンター構想」を推進し、医療技術のみならず、新しい医療の仕組みを生み出そうとしています。このようなバイタリティはどこから生まれるのか? 病院長である槇野博史先生にお話を伺いました。

「マグネットホスピタル」で、病院はどのように活性するのか?
Dr.makino1.JPGGALENUS、以下G) 先生が病院長に就任されてから「マグネットホスピタル」をキャッチフレーズに掲げておられます。具体的にどのようなことを目指しているのか、お伺いできますか?

槇野先生) 病院長に就任するに当たり、キャッチフレーズとして熟考したのが「マグネットホスピタル」という言葉でした。

この言葉の最終的な目的は「患者さんを惹きつけて離さない」と言うことで、病院のモットーである「あなたのそばに先進医療」に行きつきます。

この最終目的に向かうプロセスの中で大切なことは、働いているすべての人が「病院のために頑張ろう」と思わなければ達成できません。

病院内で一番多いのは看護師です。もちろん、事務スタッフ、医療スタッフ、そして医師と、この目的を達成するために、すべての職員が大切な役割を、それぞれに担っています。

「病院のために頑張りたい」と思ってもらえれば、スタッフの日々が充実し、そこに集う学生や研修医も、気持ちよく学べます。

そして、病院に携わる職員すべてが、やりがいと活気に満ちた雰囲気を生み出すことで、患者さんにも必然的に「安全・安心」を感じていただけると思います。

病院の理念である「高度な医療をやさしく提供し、優れた医療人を育てます」をより深く具体的に示すために、やれること、やるべきことは積極的に実践し続けようと考えています。

G) 患者の立場からすると、国立大学病院を受診する、と言うだけで気がめいりそうですが、岡山大学病院の第一印象は、活気に溢れて、院内が非常に明るい印象です。

槇野先生) 院内のアメニティは、積極的に良いものを導入しています。例えば、患者さんの待ち時間を少しでも快適にするために、前病院長(現、岡山大学学長)が、コーヒーショップを入れました。

朝出勤するとコーヒーの香りが漂い、とてもリラックスできる空間を演出しています。また、店員さんが「おはようございます」と声をかけてくれるので、気持ちのよい朝を迎えられます。

フードコートや売店も充実させましたから、職員だけでなく、患者さんもリラックスいただいているのではないかと思います。

加えて、職員の職場環境を充実させることも大切です。バックオフィスの職員休憩スペースも少しずつ拡充してきています。

患者さんはどうしても気がめいりがちですが、コーヒーショップやフードコートなどで、少しでも気持ちを和らげていただきたいと思います。

G) 「マグネットホスピタル」を具現化するプロセスで大切な、職員へのアプローチはどのようなことをされていますか?

Dr.makino8.jpg槇野先生) 良いと思うことはどんどん実証し、それを評価しなければ、職員のモチベーションは上がらない、という概念がベースにあります。

例えば、私が病院長に就任してから「楷の木賞」という表彰制度を作りました。

「楷の木」は、孔子にゆかりのある木で、学問の象徴とされています。病院の正面玄関に植樹しており、ここから賞の名前を取りました。

この賞は、医療又は病院経営の改善に関して秀でた貢献をした、個人またはチームに「賞を贈る」と言うシンプルなものですが、周囲から評価されることは、その人にとっても周囲の人にとっても、モチベーションアップにつながる原動力のひとつと思います。

以前は、新年に職員が一同に会して開かれる互礼会で、病院長抱負などを述べるに留めておりましたが、この「楷の木賞」の表彰を併せて行うことにしました。

管理職は対象外なのですが、 例えば、医師であれば、研修医やレジデントも対象にしており、指導医の先生に推挙頂き選考します。もちろん、看護師も事務部門も対象です。

この賞の真意は、例えば、肺移植など高度医療であれば、報道などで目にする機会が多いですが、岡山大学病院は、すべての職員が頑張ってくれていますので、報道ではなかなか取り上げられないことでも、頑張って実証したことに対して、しっかりと評価をしていくことが、とても大切だと思っています。

G) 職員の立場からすると、モチベーションを高く、様々なことに挑戦しやすくなるかもしれません。今までどのようなことに対して賞をお贈りしたのですか?

槇野先生) たくさんありますが、例えば、医療情報部の頑張りで院内情報処理がスムーズに動くようになったことであるとか、岡山大学病院の特徴である医科、歯科の連携において、全国で初めて立ち上げた「頭頸部がんセンター」で行う頭頸部の大きな手術になると、医師、歯科医師及び医療スタッフが協力してやらないとうまくいきませんから、そういったところで頑張っているチームを表彰しています。

また、看護部も非常に頑張ってくれています。岡山大学病院には、1000人を超える看護師がいます。そして、病院で最も患者さんと接する人たちで、「マグネットホスピタル」をより深く体現する上で、他のセクション同様、非常に大切な役割を担っています。

看護部で工夫をして、「パートナーシップナーシングシステム」という制度を作りまして、中堅と新人看護師がパートナーになり、互いに補完して協力し、看護業務を行っています。

こういった、報道ではなかなか目にしない様々な頑張りを評価していくために、いろいろな観点から光を当てる取り組みとして、この「楷の木賞」を作り、表彰しています。

「岡山メディカルセンター構想」から見える未来の医療の仕組み
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G) お話が変わりますが「岡山大学メディカルセンター構想」を提言されています。こちらについてお話を伺えますか?

槇野先生) この構想は、前病院長で現岡山大学学長の森田先生のご発想でスタートしました。

岡山は医療資源が豊富で、市内には、岡山大学病院のほか、岡山市立市民病院、岡山労災病院、岡山赤十字病院、岡山済生会総合病院、国立病院機構岡山医療センターと、500床以上の病院が集まっており、岡山大学同門の先生方が多く、研修医もたくさん従事しています。

これら6病院が中心となり「非営利ホールディングカンパニー型法人(仮称)」を作り、ガバナンスを一本化し、メガホスピタル拠点を含め、新しい医療ネットワークの仕組みを生み出そうという構想です。

少子高齢化で急性期の需要伸び率が担保されなくなりました。であるなら、競争から共有と機能分化へネットワークの役割を変容し、日本のみならず世界規模で高度医療を考えることが、非常に大切だと思います。

ガバナンスの一本化を図りながら、それぞれの病院の得意分野を機能分化し、高度医療の提供を継続し、診療内容も高めて行くことが、これからの医療体制の役割のひとつではないでしょうか?

そして、6つの病院を中心に様々な病院との連携を強化し、メガホスピタルを生み出すことで、国際的な拠点として、今以上に機能が高まります。

医療というのは、ひとつの病院だけは完成しません。そして、急性期だけでなく、回復期も慢性期も含めての連携が大切です。連携をしっかり機能させることで、医療の効率向上につながります。

例えば、地域の課題となっている県北の医師不足の問題も、様々な病院と連携をすることで、ひとつの病院が考えるのではなく、複数の病院と連携して効率的に医師を派遣し支えていくことも可能ではないでしょうか?

様々な課題が出現しては解消されていきますが、全体としてみんなハッピーになる方向に動いていけば良いと思います。

G) 今回の構想の中で、岡山大学病院というブランドはもちろん、機能についても中心的役割を担うと思いますが、その点はいかがですか?

Dr.makino7.jpg槇野先生) そうですね。岡山大学病院の活動として、「臨床研修中核病院」や文部科学省の橋渡し研究加速ネットワークプログラムの「橋渡し研究支援拠点」にも採択となりましたので、機能強化も進んでいます。

当院の活動も含めてこの構想が進んでいくと、中心となる関連病院だけで3000床規模のメガホスピタルが出現しますから、臨床研究を推進する上で、推進力のひとつになると思います。

また、連携をしっかりと進めていくことで、臨床研究の推進にもつながり、国際競争力も飛躍的にアップしますから、いろいろな国や地域、機関から、臨床研究のオファーがますます増えるのではないかと思います。

従って、我々、岡山大学病院の活動と、メガホスピタルも視野に入れたこの構想は、方向性が同じであることは言うまでもありません。

未来の高度医療を考えると、今から着手していかなければならない部分ですから、参画するみなさんの方向も、もちろん同じであると思います。

ただし、ガバナンスの統一という大きな課題はあるにせよ、誤解があってはならない部分として、無理やりひとつの型に収めると言うことではありません。

理念や経営の背景が異なっていて、得意領域も含めて、それぞれの病院の持つ「特色」を最大限発揮するための仕組みであることが肝要です。

病院ごとにミッションがあり、それぞれの「特色」を尊重し、この構想の中でそれぞれの特徴が際立てば、病院機能分化がより加速するのではないでしょうか。


岡山大学病院の未来を聞く
Dr.makino3.jpgG) 岡山大学病院の様々な活動が膨らむ中で、地域のみならず、日本全国、また世界からも期待が高まっていると思いますが、今後、岡山大学病院はどのように発展するのでしょうか?

槇野先生) 岡山大学病院の理念は、「高度な医療をやさしく提供し、優れた医療人を育てます」です。

私が推進するマグネットホスピタルの中には、「人材育成機関」と、「最後の砦」として高度な医療を提供し続けることが大きな役割としてあります。

また岡山大学病院は、総合大学の強みを生かし、高度な医療を開拓し続けることにあると思います。

例えば、医師と経済界の方が選んだ病院という調査で9位に選んでいただき、また、肺移植や肝腎同時移植など、ニュースになって皆さんの目に触れる機会も多くあると思います。

我々、岡山大学病院は、高度な医療を担う機関の代表として、その重責を全うするために、医師だけでなく、看護師、コメディカルスタッフ、事務部門も含めて、チーム医療をしっかりと根付かせていくことが肝要です。そのための人材育成に注力しなければなりません。

その上で、例えば、今後伸びていく遺伝子治療、特に前立腺がんの遺伝子治療など、新たな医療の開発が進んでいくと思います。

最先端の技術と新たな医療の開発、そういうことも、岡山大学病院にはしっかりと根付いています。

こういった環境は、歴史的な背景があります。江戸時代・寛文10年(1670年)、岡山藩主池田光政によって創建された閑谷学校は、岡山藩直営の庶民教育のための日本で初めての学校です。歴史的な史実を見ても、岡山は、新たな医療を始める素養が育っていると感じます。

G) 歴史的素養も含めて、岡山大学病院の特色をどのように活用されるのでしょうか?

槇野先生) 岡山大学病院の特色を活かすために様々なことを考えますが、岡山という環境は、医学においても歴史と伝統があり、多くの病院や先生方とのネットワークがあります。中国四国地方を中心に200床以上の病院が83もあり、総ベッド数は3万3000床を超えます。

このような医療ネットワーク環境の中で岡山大学病院は、患者さんの紹介、医師や研修医の連携ということも含めて、中国四国地方における中心的な国立大学病院としての役割を担ってきました。

この環境やネットワークをより一層強化するためには、「臨床研究をもっとするべきである」と思い、昨年度、「臨床研究中核拠点」となりました。また、文部科学省の「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」の橋渡し研究支援拠点にも採択されました

「臨床研究中核拠点」と「橋渡し研究支援拠点」は、旧帝大の次に慶應義塾大学とともに岡山大学が採択されています。こういった機能と、すでにあるネットワークを活用して新たな医薬品と医療機器を生み出していくことが、今後の最大のミッションです。

中国四国地方の基幹病院とのネットワーク(中央西日本臨床研究コンソーシアム)をあたかも一つの大きな病院、すなわち「メガホスピタル」として活用し、大規模な臨床研究や治験を迅速に実施し、研究成果を産業化に繋げることを目指します。

また、ネットワークの病院には、数多くの「シーズ」がありますから、中国四国地方の大学病院だけでなく、関連病院とも一緒になって、「シーズ」の開発を支援して行きたいと思っています。

こういった岡山大学病院の施策は、病院単体だけでは実現しません。

大学院医歯薬学総合研究科とも連携した総合大学というメリットに加え、大学全体でのサポートをいただけたことも、大変ありがたいことです。

産官学連携はもちろん、医療機器の開発などは工学部との連携もあります。これらは一例ですが、総合大学の強みもしっかりと活かして行きたいと考えています。

G) 本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。


岡山大学病院長 槇野博史先生 プロフィール
Dr.makino4.jpg槇野 博史(まきの ひろふみ)
岡山県出身/岡山大学医学部医学科卒業
1996年4月 岡山大学医学部第三内科(現岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学)教授
2002年4月 岡山大学医学部附属病院 副病院長
2003年10月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 副病院長(~2004年3月)
2005年6月 岡山大学医学部・歯学部附属病院 副病院長
2009年4月 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科長
2011年4月 国立大学法人岡山大学 理事・岡山大学病院長(在任中)

2005年~2009年4月まで「日本リウマチ学会」理事、2008年~2012年6月まで「日本腎臓学会」理事長、2010年6月、第53回「日本腎臓学会学術総会長」など要職を歴任。


special thanks to Dr.MAKINO/photo by YASUHIRO SEINO/text by GALENUS
appeared in 2015/01/28