『ドクターヘリ補完計画』で救命率をUPせよ!! 『ドクターヘリ補完計画』で救命率をUPせよ!!社会医療法人 緑泉会 米盛病院
理事長・院長 米盛公治

厚生労働省によるとドクターヘリ事業は、2013年3月末日現在、34道府県40機にて事業を継続しています。この数は年々増え、全国各地から次々と新しい計画が発表されています。(下部※1)

しかし、ドクターヘリを必要としている地方都市の財政は、運航費の半分が国からの助成とはいえ、厳しいものがあります。

そのような状況の中で鹿児島県は、様々なハードルを乗り越え、「民間病院の医療用ヘリの活用」という、全国初となる「新しいドクターヘリ事業のカタチ」を創りだしました。

そして、このきっかけとなり補完をするのが、米盛病院の民間医療用ヘリ「レッドウイング」です。

鹿児島県の救急救命率のUPのために締結した「ドクターヘリ補完運航」の全貌を、理事長の米盛先生へ伺いました。

140929_yonemori1.jpg 全国で4番目、鹿児島県初の民間医療用ヘリ「レッドウイング」。飛行距離からカバーできるエリアは、北は福岡、南はトカラ列島まで広範囲に及ぶ。

※「米盛病院」の補完運航に関するプレスリリースはこちら

全国初の『ドクターヘリ補完運航』とは?

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GALENUS、以下G)9月9日の米盛病院の新築移転から本格運航を開始した民間医療用ヘリ「レッドウイング」ですが、今回、全国初となる、民間医療用ヘリによるドクターヘリの補完運航に関する協定を鹿児島県と締結されました。背景を伺えますか?

米盛先生、以下米)鹿児島県のドクターヘリは、鹿児島市立病院を基地病院として2011年3月に運航を開始しています。出動回数は、2012年は591件、2013年になると835件と急増し、その数は日本国内でも有数の多さ(下部※2)です。

ドクターヘリの出動要請のフローは鹿児島県の場合、救急隊の現場での要請基準に加えて、「キーワード方式」を採用しています。これは、県民からの119番時の通報内容に、予め設定されたキーワードがあれば、直ちに出動となる方式です。

この「キーワード方式」は、重傷者だけでなく、重症になる可能性のある人を含めていますから、救命率向上やPTD(防ぎ得た外傷死)の減少、予後まで含めると非常に有効だと思います。

しかし、出動事案が急増しますから、ドクターヘリ出動中に別事案の要請が重なる「重複要請」も発生します。

昨年度、この重複要請がわかっているだけで、約100件発生しています。加えて「今ドクターヘリがどこにいるのか」と言うことは当然、要請を指示する消防や救急隊には共有されていますから、あえて要請をしない潜在的な重複要請事案を加えると、もっと多いと推認できます。


そして、800件を越える出動要請と潜在的なものを含めた重複要請を考えると、ドクターヘリ1機では、鹿児島県をカバーしきれないのではないか、と常々感じていました。

G)と言うことは、今回の協定は、米盛病院で運航している民間医療用ヘリ「レッドウイング」が、県ドクターヘリのサポートに入ることで重複要請を減らしていく、ということなのでしょうか?

米)「鹿児島県ドクターヘリ補完ヘリの救急患者搬送に関する協定」という名称ですので、役割のひとつとして「重複要請に対応する」ということも含まれています。

重複要請に対応するために、ドクターヘリを追加で保有するには、お金と時間がかかりますが、すでに当院で保有している「レッドウイング」を活用すれば、速やかに対応できます。

運行費用も当院が負担しているわけですから、私からも県へ提案し、また県も、様々な調整を経て今回の締結につなげ、全国初の試みを主導してくれました。

10月1日からのドクターヘリ補完運航の開始で、重複要請への対応が迅速に進むと考えています。

しかし、今回の協定による「レッドウイング」の役割はこれだけではありません。

県のドクターヘリは最大で2名の傷病者を運べますが、それ以上の傷病者が多数発生するような「多数傷病者発生事案」は、ドクターヘリに加えて、当院の「レッドウイング」にも出動要請が発生します。


また、大災害が起き、ドクターヘリが被災地に派遣された場合、「レッドウイング」が県のドクターヘリの代行として運航を行います。

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米盛病院の屋上には、ヘリポートと「レッドウイング」の格納庫、給油設備がある。桜島を望む開けた眺望は、ヘリの離着陸をより安全に行う必須条件のひとつだ。到着後患者は、ERへ直通のエレベーターで搬送され、ハイブリッドERで速やかに治療が施される。140929_Dr.yonemori4.jpg

自走式CT+血管撮影装置+手術台が統合した日本初の「ハイブリッドER」。患者の移動をすることなく、CT→IVR→手術が可能で、初療から根本治療まで行える画期的な設備。「ヘリ」と「ハイブリッドER」で一秒を救う。


鹿児島県初の民間医療用ヘリ「レッドウイング」の導入プロセスは?

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G)今回の協定は、官民協業でのドクターヘリ事業の新しいカタチであると感じましたが、そもそも「レッドウイング」の導入は、どのようなプロセスで決定されたのでしょうか?

米)2025年というタイムリミットがあるということは、2024年までに自院の機能や立ち居地を確定し、地域に根付かせなければなりません。

そういった経営環境の中で、将来的に鹿児島県では「救急医療のニーズが高まるだろう」と想定していました。

当院は、整形外科単科病院でしたから外傷疾患も得意領域です。であれば、自院の得意領域に地域の将来ニーズを重ね合わせ、「救急」という機能を加えていこうと考え、この構想に則って、意思決定を行ってきました。

様々な意思決定のプロセスの中で、民間医療用ヘリの導入を決めた1番のきっかけは、2011年に鹿児島県がドクターヘリの運航を始めたことです。

ドクターヘリの運航に関しては、どんなことが起き得るのか、全国各地で前例があり、いろいろと調べる中で、「ドクターヘリは基本的に有視界運航が義務付けられて、日没までの運航となり夜間は飛べない」という懸念事項がわかりました。

また、先ほど申し上げたように「多数傷病者」「重複要請」という課題もあります。

ドクターヘリの「重複要請」「多数傷病者」「夜間」という、この3つの課題に対して、地域のために何かお手伝いができないか? ということを考えて、まずはサポートから入ろうとドクターカーを導入しました。

一つひとつの要請事案を重ねていくにつれやはり、「ドクターヘリの重複要請時」であったり「ドクターヘリが飛べない夜間の要請」であったりと、ドクターカーが要請されるときのパターンがはっきりしてきました。

ドクターカー導入により、鹿児島県のドクターヘリのサポートは、ある程度お手伝いできるようになりましたが、しかし、どうしてもサポートできない部分が出てきます。

それは車での活動限界です。

消防要請だと緊急走行で出動しますが、救急隊とのランデブーポイントまで片道30分程度が限界だと感じています。

加えて、鹿児島県は離島もありますし、錦江湾で隔てられている地理的環境が大きく作用しますから、例えば、当院のある鹿児島市から錦江湾の対岸にある大隅半島へは、行きたくても時間的・距離的制約で行けません。

要請された場所へスムーズに動くためにはやはり「ヘリ」でなければ難しい。そして、米盛病院でヘリを導入するのであれば、我々だけのためではなく、地域のために活用できる環境を生み出すべきであり、多くの人々の役に立つのであれば、尚のこと意義があると考えました。


そして、「救急科の設置」「新築移転」へと計画が進む中で、ヘリの購入を検討すると同時に、県に対して、今後の救急医療の改善点について提案し、また、県も様々な調整をしていただき、今回の協定締結に至りました。
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米盛病院の「レッドウイング」は、イタリア製のAW109双発機。行政区に縛られない民間ならではの機動性で南九州全体をカバー。2014年10月1日からは、鹿児島県ドクターヘリと連動し、鹿児島の救急医療体制を補完する。

米盛病院の救急医療のあり方とは?

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G)官民一体となって鹿児島の救急医療を考えたひとつの答えが、今回の「補完協定」だと思います。今回の協定を含めて、米盛病院の救急医療のあり方についてご所感を伺えますか?

米)当院の救急科は1次救急~3次救急まで、全てをカバーできるよう整えています。しかしその中でも多発外傷に強いという「専門性」と「ヘリの活用」が必要と考えています。

この理由は、人口動態を考えていくと自ずと導かれるものと思います。

日本の面積と人口の相関関係は、国土面積に占める割合が5%の大都市圏に人口の45%の人が住み、国土面積に占める割合が50%の地方都市に人口の45%の人が住んでいます。

このデータを見ると、大都市圏も地方都市も、人口比率は同じで、人口密度が異なるだけと言うことになります。

と言うことは、居住分布に応じた救急医療の提供体制が必要であり、大都市圏と比較した場合のカバーエリアは、必然的に広くなります。

カバーエリアが鹿児島県を越え、南九州全域と想定した場合、ドクターヘリは県を超えての活動はなかなか難しい場合があります。

しかし、「レッドウイング」は民間医療用ヘリですので、必要があれば、県を越えて駆けつけることもできますし、県を越えての病院間の患者搬送も可能です。

鹿児島を含め南九州は、救急医療、特に多発外傷や整形外科領域に対する医療資源が潤沢であるとは言えません。

その地域で手に負えない多発外傷であれば、「レッドウイング」で当院へ搬送し、容態が安定した後に地域の病院へお戻しする。多発外傷に強いという「専門性」と「ヘリの活用」で、広いエリアでの医療連携が可能だと考えています。

医療圏という概念はありますが、患者さんにとっては、医療側の理論はなかなか受け入れてもらえません。特に救急医療は命に直結するケースが非常に多いですから、「一秒を救う」にスポットを当て続けることが大切だと考えています。

2025年というひとつのタイムリミットの中で米盛病院は、「救急科」と「整形外科」の両輪で「一秒を救う、一生につなぐ」をキャッチコピーに、南九州全体の救急医療に貢献していきたいと考えています。


G)本日はお忙しい中、ありがとうございました。



※1)2014年6月1日現在のドクターヘリ事業数は、36道府県43機(出展:NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク)。

※2)NPO法人救急ヘリ病院ネットワークの統計によると、2013年4月1日~2014年3月31日までの2013年度で、兵庫県「公立豊岡病院組合立豊岡病院」1422件、千葉県北部「日本医科大学千葉北総病院」1053件、群馬県「前橋赤十字病院」843件、鹿児島県「鹿児島市立病院」835件と、鹿児島県のドクターヘリ出動件数は全国で4番目。


社会医療法人緑泉会理事長 米盛病院院長 米盛公治先生 プロフィール
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米盛公治(よねもり こうじ)/1965年9月9日生(49歳)
鹿児島県出身/医学博士
1997年3月鹿児島大学大学院医学研究科修了。
鹿児島大学病院、鹿児島県立大島病院などを経て1997年当法人入職、
2002年院長、2009年理事長に就任し現在に至る。

・鹿児島大学医学部 臨床教授
・鹿児島市医師会 理事
・鹿児島県医療法人協会 理事
・日本整形外科学会認定専門医
・日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
・日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科指導医
・BLSインストラクター
・ACLSインストラクター
・ICLSインストラクター
・ITLS basicインストラクター
・JPTECインストラクター
・Emergo basicインストラクター
・MCLSインストラクター
など、整形外科のみならず多種多様の内科・外科系救急指導資格も有する。

special thanks to Dr.YONEMORI/photo by YOSHIO KATAYAMA/text by GALENUS

※編集部の希望により、米盛先生には写真撮影にお付き合いいただきました。

appeared in 2014/9/30