国立大学病院への期待に応えるために~千葉大学医学部附属病院の挑戦 国立大学病院への期待に応えるために~千葉大学医学部附属病院の挑戦千葉大学医学部附属病院
病院長 山本 修一

今回の医療法改正により、病院機能の明確化や地域医療、地方権限の拡大など、経営を取り巻く環境が変化する中、国立大学病院への期待が今まで以上に高まっている。千葉大学病院長であり、全国の国立大学病院長を取りまとめる「国立大学附属病院長会議常置委員長」でもある、山本修一先生へお話を伺った。
140910_chibadai.png2014年7月22日に稼動を始めた、千葉大学病院の「新外来診療棟」。全ての患者さんは、この新棟からはじまる。

新外来診療棟の効果と副産物

0911_chiba_Dr.yamamoto1.jpg

GALENUS、以下G)新外来診療棟を拝見しましたが、外観も入り口も「どこかのショッピングモール」のような病院らしからぬ雰囲気でしたが、コンセプトなどを伺えますか?

山本先生)2014年7月に千葉大学医学部附属病院の外来診療棟が完成しました。様々なアイデアが出る中で、コンセプトは「病院らしくない病院」にしました。

その理由は、大学病院に来院する患者さんは「大学病院を紹介された」というだけでも、重苦しい気持ちをお持ちですから、できるだけ圧迫感がないようにしたい、という思いからでした。

「あれ、ここは本当に病院なのかな?」と思っていただけるようにしたかったので、これは意に沿った形になったのだと思います。


G)構想から完成までどのくらいの期間を要したのでしょうか?

山本先生)構想からは10年ほどでしょうか。「理想的な大学病院の外来って何だろう?」というところから議論を重ね、ようやく最初のグランドデザインが出てくるのですが、「国立大学病院」という固定化されたイメージや、横並び的な発想からのデザインのため、私たちの理想とはかけ離れていました。

ですから、固定化されたイメージを現在の形に変えていく作業には、随分と時間をかけました。

G)経営層の皆さんのご苦労が随分あったと思います。

山本先生)今回のこのプロジェクトには、経営陣だけでなく、現場の職員も多く入ってもらいました。

やはり、現場でなければわからない部分、例えば、患者さんの病院での流れ、待合室や診察室での様子など、現場視点でのアイデアは必ず患者さんへ還元されますから、視察を含めて動いてもらい、現場の声を極力吸い上げるようにしました。

海外の視察にも随分と行ってもらいました。ヨーロッパであるとかアジアであるとか。事務方も含めて若い人にも視察に行ってもらい、先進的な事例を見て、そこから落とし込んだカタチが、この新しい外来診療棟です。

G) 携わる人が増えれば増えるほど、取りまとめるのに苦労されるケースが多いと思いますが。

山本先生) 新外来診療棟のグランドデザインは、多数決で決められるものではありません。携わっている職員の合意形成ができないと、良いものにはなりませんから、時間はやはりかかりましたよね。

しかし、良い副産物も多くあったと思います。

様々な部署の中から担当者が集うわけですが、構想を具現化していく段階で、他の職種、他の部署に対する理解が深まったように思います。

病院の中で、行ったことない部署、見たことのない場所なんてたくさんありますから、普段接することない人たちと、いろいろな話を聞いたり伝えたり、自分たちの思っていることと、全く異なることが起こっている部署があることを認識したり、こういうことがディスカッションの中でたくさん出てきますから、相互理解は自然と深まりますよね。

これをきっかけに、今まで以上に、職種間の連携が円滑になったことが、とても大きいことです。良い相乗効果がますます出てくれることを期待しています。
 
千葉大学新外来診療棟の内観写真
 

国立大学病院への期待にどう応えるか?
140911_chiba_Dr.yamamoto2.jpg

G) 国立大学病院への期待が、今までとは変化しているように思いますが、山本先生はどのようにお感じですか?

山本先生) 最近は、病院の機能分化というのが強く言われるようになって来ましたし、今回の医療法の改正でも、各地域の中で病院の機能をしっかり定めていくように、という方向に動いてきています。

その中で、我々国立大学病院の担うべき機能は「治療で一番難しいところを行う」ということだと思います。
一番難しい時期をできるだけ短時間で治療して、次のステージへ移して差し上げるということが重要なところになりますよね。
だから「国立大学病院としての必要な機能が何か?」というところが、より研ぎ澄まされて行くことになると思いますね。

G) 地域住民からすると「国立大学病院」は何でも揃っているという安心感がありますが。

山本先生) 確かに、全ての診療科が揃っていて、どんな病態にも対応できる。しかし、その中で我々がやるべきところは「一番難しいところ」であるということです。

これは、何でもあるしどんなことにも対応できるから、どんな病態でもOKということではありません。基本的に千葉大学病院は、紹介状なしでは受診できませんから、「国立大学病院」「千葉大学病院」でなければ『診れない、治せない』そういう部分を担当していくという事です。

そして大事なことは、いかに短い期間で治療するか、という事です。入院であれば在院日数をできるだけ短くし、外来で言えば通院回数をできるだけ最低限にして、次の医療機関にお願いするというカタチですね。

地域医療連携で一番大変なところ、それは、治療に大量の医療資源を集中的に投下しなければならない部分、高密度の医療資源が必要な部分、というのはやっぱり国立大学病院が担うところでなければなりません。

千葉大学病院は、県内で唯一の国立病院ということで、病院機能や位置づけはとりやすい環境であるとは思います。

G)位置づけがわかりやすい分、周囲からはっきりわかるわけですから、期待も非常に強くなるのではないかと思います。

山本先生) そうですね。もちろん、期待は強くなると思いますが、だからこそ、我々の存在価値があるのだと思います。

その中で、成果と成績をきちんと上げることが大切で、これができなければ千葉大学病院で医療を行う意味がないと、言って良いと思いますね。

G) 今、病院経営の環境が大きく変化しています。

山本先生) 環境の変化はありますが、その中でも我々が担当する部分は変わりません。病態のステージで言えば、重症の方向に研ぎ澄まされることはあっても、軽症の方向に行くことは絶対にありません。

重症の領域における患者数は、2025年に向けて増えていくと思いますから、我々の持っているリソースを効率的に活用して、どう治療を進めていくかということだと思いますね。

もうひとつは、医療連携をスムーズに行い、患者さんが途中で迷わないように、病診連携、病病連携は、効率的に積極的にしっかりと進めて行くことが大切です。

G) 医療連携は以前よりも加速しているのでしょうか?

山本先生) もちろん、そこをより一層しっかりやって行こうとしているところです。新外来診療棟の中には、新しく「入退院センター」を新設しました。名称はどこにでもありそうなものですが、機能としては、簡単に言うと「入院が決まった段階で、退院後のことを考える」ということです。

「入院や手術が決まった段階で、その次のアクションを決めておく」といったプランニングを行い、必要であれば「その段階で次のステージの病院との交渉を始める」といった機能を持たせています。

我々が直接、在宅領域に触れることはありませんが、地域における在宅領域の拡大を見据えると、「在宅」に知見のある職員をどう育てるか、あるいは、「在宅」へスムーズに移行できるような機能強化を持たせることも将来的には考えています。
 

今後の国立大学病院のあり方について

140911_chiba_Dr.yamamoto3.jpgG) 山本先生は「国立大学附属病院長会議常置委員長」の要職を兼任されています。そのお立場から、今後の国立大学病院のあり方や将来像をお伺いできますか?

山本先生) 国立大学病院は、42の大学病院、2つの歯科病院と1つの研究所病院から構成されていますので、基本的にはほぼ全ての都道府県にあります。地域性や環境、状況が、各病院によって異なるところもありますから、医療の中でのどの部分を担当するかというところで担うポジションは若干異なります。

例えば、千葉大学病院のように「一番難しいところ」ばかりでは、地域医療を保つことが難しいところもありますから、「一番難しいところ」に加えて、もっと広い部分を診なければならないところもあります。

しかし、全ての国立大学病院に言えることは『地域医療の最後の砦を担う』ということに間違いはありません。

そして地域医療が今まで以上に重要になる中で、国立大学病院のもうひとつの大切な役割は『地域に優秀な医師をどれだけ輩出し続けられるか』ということです。

特に、平成29年からは、新しい専門医制度が始まります。

初期研修医制度は、ある程度のクオリティが病院にあれば受け入れることができます。しかし今度の専門医制度は、国立大学病院が核となり、地域の病院との連携の中で「専門医の育成」が必要になります。ですから、卒後教育の中で、国立大学病院が担う領域は非常に大切であると思っています。

そして、どの科においても、どの専門医でも、大学が核となって、優秀な人材がいる地域の病院とネットワークを作り連携していかないと、専門医が地域に定着していかないと感じています。

また、来年卒業する学生から、初期研修のカリキュラムが始まります。平成29年を見据えると、今から動いていかなければ間に合いません。本来、初期研修と専門医研修は連続したものであるべきですから、そこまで見据えて来年の春からスタートしていきます。

G) 学生の質についてはいかがですか?

山本先生) 18歳人口が減る中で、ここ数年で医学部の定員が約1400人増えています。相対的には医学部に入りやすくなっているかもしれませんが、昔と比べると、学ぶべきことはだいぶ増えていますね。

今は、国家試験に3日もかかります。医学部の教育は6年間のカリキュラムと言いながら、最後の1年間は国家試験対策に費やさざるを得ない。膨大な知識量が要求されるわけですから、今の学生さんは気の毒ではあると感じます。

この問題が医学部教育を圧迫しているわけですから、少しずつでも変えていこうという方向に動いてくれればと思いますね。

G) 医学部と大学病院の関係に変化は出てくるのでしょうか?

山本先生) 教育機関という視点であれば今までと同じですし、医学部の後半は病院での教育です。学生は、社会との接点がより広い病院で、患者さんを介して社会と向き合うわけですから、こういった本質的な部分は大きく変わらないものだと思います。

ただ、病院は独立採算制の色合いが強く、独自に社会とのつながりを深めているという点では、変化は出てきているかもしれません。

G) 今回の医療法の改正はどのようにお考えですか?

山本先生) 都道府県の権限が強くなるということは、今まで以上に、地域の司令塔として行政が果たすべき役割は強くなりますよ、という国の意思表示とも読み取れます。

環境の変化はあれど国立大学病院は、冒頭来申し上げている役割を全力で担うし、そして患者さんの次のステージへの橋渡しも同じように全力で行う、ということに変わりはありません。

そして、千葉大学病院であれば、千葉県の医療をいかに支えるか、千葉県民のためになる医療体制はどうあるべきか、という論点は、千葉県庁とも、医師会とも、異論が出るものではないですから、ここを追求していける環境にあると思います。

各大学病院が、地域の医療や体制をどう支えるか、優秀な医師をいかに輩出し地域に根付かせるか、地域の病院とも連携しながら充実させていくことが、今後ますます大切になってくるでしょう。

G) 本日は、お忙しい中ありがとうございました。


千葉大学医学部附属病院長 山本修一先生 プロフィール
140925_chiba_Dr.yamamoto4.jpg
山本 修一(やまもと しゅういち)/1957年(昭和32年)10月5日生(56歳)
東京都出身/医学博士
1983年3月 千葉大学医学部卒業
1989年3月 千葉大学大学院医学研究科博士課程修了
1983年5月 千葉大学医学部附属病院研修医
1989年4月 鹿島労災病院眼科副部長
1990年6月 富山医科薬科大学講師(附属病院)
1991年1月 コロンビア大学ハークネス眼研究所研究員
1997年1月 東邦大学助教授(医学部付属佐倉病院)
2001年7月 東邦大学教授(医学部付属佐倉病院)
2003年4月 千葉大学教授(大学院医学研究院)
2007年4月 千葉大学医学部附属病院副病院長に併任
2014年4月 千葉大学医学部附属病院長
(任期:平成26年4月1日~平成29年3月31日)

special thanks to Mr.SHIMOJYOU(public relations officer)photo by YOSHIO KATAYAMA/text by GALENUSappeared in 2014/9/25